企業の現場から
2016年8月号(8月25日発行)

株式会社前川製作所

21世紀の人づくりに向けて

我が国においては、他の先進諸国に例を見ない急激な人口の高齢化が進みつつあり、高齢化社会への対応が緊急の課題になっています。高齢者と生産年齢人口の比率が2040年には1:1.5と推定されている現在、高齢者を含め全年代が活き活きと働き、協力し合うことが企業社会に求められていることではないでしょうか。ただ、生涯現役を考えたいが具体的にどうすればいいかわからない、仕組みはあるのかといった疑問も多く、現実に取り入れることに困難があることも大きな壁となっています。今回は、産業用冷凍機メーカーである株式会社前川製作所(以後、マエカワ)の人づくりの考え方を一例として御紹介させていただき、企業社会における生涯現役について共に考える機会にしていただければ幸いです。

マエカワは定年がない(定年で辞める人がいない)ということで知られていましたが、1976年に小冊子『マエカワは55才をこう考える』を全社員に配布しました。生涯現役で働くマエカワの社員には、入社時からすでに体験的に学ぶことが出来るポイントがあります。今回はそのポイントを、年代ごとにお話させていただきます。

マエカワの人づくりの基本は、「動と静」という考え方にあります(図)。「動の時代(20代〜40代)」は変化を好み、革新を尊び、成長を目指す世代であり、「静の時代(50代〜)」は安定のイメージがあり、伝統を尊重し、成熟を大切にするという世代であるとしています。



また、静の世代がそれまで培ってきた幅広いネットワークやコミュニケーション力は動の世代がまだ持ち得ないものであり、静の世代の大きな強みです。一つ例を挙げますと、江戸三代祭の一つ「深川八幡祭り」では3年に1度の大祭の時は、55基の神輿が永代通りを封鎖して町内約8キロを渡御します。「わっしょい」の掛け声が響き渡り、沿道からは滝のような水が担ぎ手めがけて浴びせられるというクライマックスは、本当に見事です。この祭りで神輿を担ぐのは若者たちですが、長老や世話役の方々が祭りの手順・しきたりのノウハウや広範なネットワークをもって祭礼の一切を取り仕切ります。長老や世話役の方々には神輿を担ぐ「動」的な力はもうないのかもしれませんが、祭りを支え次の世代に伝えてゆく「静」的な力があり、まさにマエカワの「動と静」の考え方そのものです。どちらの世代も重要な価値があり、マエカワは変化や革新、成長への志向が弱くなりがちな静の年代の人たちが持つ、歴史や伝統の価値をよく認識し、人間的にも安定・成熟しているという強みを存分に発揮させる生涯現役の共同体をつくろうと考えてきました。第一章では、動の時代、第二章では50才の分岐点、第三章では静の時代についてお伝えします。

【第一章:動の時代(20代〜40代)】

マエカワに入社した社員は、全員が寮(緑風寮)に入り、3年間の共同生活を送ります。共同生活を通して、様々なタイプの人とコミュニケーションをとりながら人間力を高めることを目指しています。したがって、寮生活で培ったそうした力を職場で存分に活かしてもらうための基礎作りや、将来への目標を仲間たちと語り合って深めてもらう場でもあります。最近ではシェアハウスのような共同生活の場所も人気がありますが、マエカワの寮も現代の若者が敢えて求める情緒的なつながりという役割を果たしているのかもしれません。ただ、シェアハウスと決定的に違う点は、寮生は全員同じ会社で働く仲間であるということです。同じ会社だからこそ、自らの強みや弱みを吐き出し認め合える関係性をつくることで、仕事にも結びついていく基点になるのでしょう。

また、寮では高校卒業で入社した人から大学院を卒業した人まで、様々な人が一緒に共同生活を行い、年上や年下の年代を含めて仲間作りやネットワーク作りを行って関係性を深めていきます。年齢や学歴や性格が違う相手と対等に付き合うためには、自分と相手との違いを認め、受け入れなければなりません。相手を拒否したり避けたりするのではなく、認め受け入れるということ、これが共同生活で学べる重要な側面です。近年の人間関係は、拒否することや避けることが多いという特徴があるように感じます。情緒的なつながりを持ち自分と他者の違いを理解して認め合うことで、その後仕事上で出会う様々な人とどう接していくべきか、相手の求めるものはなにか、自分の意見をどう伝えるかということに役に立ち、それを寮の時代に体験的に理解していくことができます。

このような人との関係性の中で、寮では主体的に『感じ、考え、気づく』ということを身につけていきます。寮では、寮生が企画するイベントや勉強会、ボランティア活動など自主的な活動を行っています。この自主活動の目的は、自分の得意なことや趣味が生かせるということに加えて、自分の役割や居場所があると実感するところにあります。人からやらされていることに対しては、注力したとしてもそこに心を込めることは難しく、結果的に良いものを生み出すこともできなくなってしまいます。心を込めるには、自分から発信したり、自分の興味に沿っていたり、相手がそれに共感してくれるという流れが必要で、この流れの中で新しい発見をしたり、成功させるためにどうしたらいいか考えたり、次に活かすための方法に気づいたりといったことを体験することができます。この体験は必ず仕事への取り組み方にもつながり、そういった個人が集まることでさらに良い仕事が拡大していくのです。しかしそのためには、「自分が一体何をしたいのか、次は何をするのか」ということを問われ続けるということになります。これは寮生にとっては楽しくもあり辛いことかもしれませんが、この考え方の“癖”は非常に重要で、マエカワでは職業人生を通して問われ続けますので、寮の時代に培っていくことは大切な作業なのです。

入社3年後、退寮を目前にした時期に、「人生30年計画」というものを作成します。30年後自分はどうなっていたいか、どういう働き方をしたいかを問われるものです。30年後はあまりに先のことで想像もできないと思いますが、3年間の寮生活で常に問われ続けていた、「何をやりたいか、次は何をやるのか」という考え方の“癖”のおかげで、それぞれがよく考えられた素晴らしい内容を提出してきます。退寮すると、それぞれが本社、工場をはじめとして全国各地に配属され巣立っていきますが、マエカワマンとしての意識がこの時点で確立されている背景には、寮で同期や先輩・後輩と過ごした時間で育まれた意識が大きく影響しているのかもしれません。

次回は、【第2章 50才時研修「場所的自己発見研修」】について御紹介します。