キャリア塾
2017年1月号(1月26日発行)
立正大学 経営学部
准教授 西岡由美 氏

第1回

今回からコラム「キャリア塾」を担当する西岡由美です。私の専門は経営学のなかの人的資源管理論です。そのため、これから数回にわたって、人材マネジメントの視点から多様な社員について考えてみたいと思います。多様な社員といった場合には、個人の職業観、就労意欲、ライフステージ等の多様性も考えられますが、ここでは雇用における多様性、つまり雇用形態に注目します。

連載の初回となる今回は、まず、雇用形態の多様化の実態と、企業内の多様な社員の適切な組合せを検討する枠組みをご紹介します。



1.多様な働き方の拡大

ご存じのとおり、個々の働き方に対するニーズの多様化にともない、企業で働く人の雇用形態も多様化しています。「労働力調査」によると、雇用労働者に占める非正規雇用労働者の割合は、1990年代半ば以降、右肩上がりに増加しています。さらに非正規雇用労働者の内訳を詳しくみると、パートが約半数を占めるものの、アルバイト、契約社員、派遣社員などの多様な労働者がいます(図表1参照)。

また、正社員についても多様な働き方の波が確実に広がっています。第二次安倍政権の発足後、経済成長戦略の一つとして働き方改革が進められ、限定正社員が注目されています。限定正社員については次回で詳しく説明しますが、企業によっては既にこの限定正社員制度を採用しているところも多く、厚生労働省「『多様な形態による正社員』に関する研究会」の報告書によると、多様な形態による正社員を約5割の企業が活用しています。




2.人材ポートフォリオ論

多様な社員の組み合わせとそれに適合する人事管理は、1990年代半ば以降、人材ポートフォリオとして議論されてきました。今回は、そのなかでも特に有名な「柔軟な企業モデル」と「人的資源アーキテクチャ」を紹介します。



<柔軟な企業モデル>

アトキンソンによって提唱された「柔軟な企業モデル」では、企業を取り巻く様々な経営環境の変化に対応するために、以下の3つの柔軟性を備えることの重要性を指摘するとともに、これを可能とする人材の組合せを提示しています。


(1)数量的柔軟性:労働需要の変動等に対応した従業員数の柔軟な増減
(2)機能的柔軟性:多技能化・多能工化による新しい職務や業務内容への対応
(3)財務的柔軟性:企業の支払い能力に応じた人件費の変動費化

図表2に示すように、同モデルでは、企業内で働く労働者を中核グループと周辺グループに分類し、さらにその外側に派遣労働者や自営業者などの外部労働力グループを配置しています。そのため、この企業モデルは、正規/非正規雇用さらには外部人材の活用の論拠としてよく使われています。




<人的資源アーキテクチャ>

リパックとスネルは、企業に必要な人材を「戦略的価値(strategic value)」と「希少性(uniqueness)」という2軸を用いて4つに類型化し、これらを適切に組み合わせる「人的資源アーキティチャ」を提示しています。そして、それぞれの象限において必要な人事施策を具体的に示しており、マネジメントの在り方が異なることを指摘しています(図表3参照)。





企業では最適な戦略や目標を達成するために、異なるタイプの社員をどのように合理的に組み合わせて活用していくかが人事管理の重要な課題の一つとなっています。これらの枠組みについてはいくつかの問題点があり、様々な批判がなされていますが、自社で働く多様な人材の現状を整理し、彼(彼女)らに適応した人事施策を検討するための基礎的な視点としては大いに役立つものでしょう。




筆者プロフィール

西岡 由美(立正大学 経営学部 准教授)

学習院大学大学院経営学研究科博士後期課程(経営学専攻)満期単位取得退学。湘北短期大学総合ビジネス学科助手、専任講師を経て、2010 年より立正大学経営学部専任講師、2012 年より同准教授。 主な著者は、「契約社員の人事管理と基幹労働力化 ― 基盤システムと賃金管理の二つの側面から―」『日本経営学会誌』第36号, pp.86-98, 2015年、「人事方針と人事施策の適合と企業成長」宮川努・淺羽茂・細野薫編『インタンジブルズ・エコノミー: 無形資産投資と日本の生産性向上』東京大学出版会, 2016年。