キャリア塾
2016年12月号(12月22日発行)
中央職業能力開発協会
CSCスーパーバイザー
泉田 洋一 氏

『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』(第6回)

1.「中年」とは

この連載では、『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』を、企業/人事部門の観点から紹介していきます。

☆この連載では、「中年」を45歳〜54歳ぐらいの方とします。

☆中年期は人生の折り返し地点でもあり、職業人生の折り返し地点でもあります。


前回は、「キャリアデザイン研修」の実施の仕方について説明をしました。最終回の今回は、「中年」のキャリア形成に必要な行動について説明します。




2.現在のキャリア形成の考え方

従来、キャリア形成をするには、「自己理解」と「仕事理解」を行い、マッチングをするのがよいと言われてきました。しかし、変化の早い現在では、「自己理解」と「仕事理解」だけでなく、「環境理解」も必要になってきています。この「環境理解」には、現在の環境を理解するだけではなく、これからの環境がどう変わっていくのかを予想する、ということも含みます。



3.変化に対応できるか

「中年」の方が職業人になった頃と、現在とでは、自分の仕事能力、仕事に関する考え方、仕事の仕方、仕事上のポジションは、大きく変わっているでしょう。また、技術革新により、仕事の環境も、以前とは大きく変わっていますし、これからも大きく変化していくでしょう。職業人は、その環境の変化に対応していかないと、企業にとってお荷物になってしまいます。お荷物にならないためにも、変化に対応する行動を取ることが必要になってきます。

変化への対応がしづらくなってくる人は、新しいことに興味がなくなり、過去のことに話が向いてしまいます。以下のような傾向があるように思えます。


・新しい技術への興味がない
・新しい人的ネットワークを作っていない
・飲み会/食事会は、決まったメンバーで行く
・自分の過去の自慢話をちょくちょくする
・面倒だという発言が多くなってきた
・「最近の若い者は」と発言するようになってきた



4.変化に対応する行動

「中年」になると、新しいことを実行する際、過去の成果や経験、経歴が邪魔をすることがよくあります。過去に成功したやり方や古くなった技術スキルに固執したり、立場を守るため失敗を恐れて行動が出来なくなったりするからです。変化への行動をして、失敗してしまうと今の立場はどうなるのだろうかという気持ちが出てくるのは当然でしょう。若い頃は、見たこと、聞いたこと、経験したことをどんどん吸収していきましたが、「中年」になると、既知のことや経験したことが多くなり、行動する前から、どうなるかを予測してしまい実行しなくなることもあります。

このように、多くの中年の方は、変化に対応する行動をとるとき、色々な悩みや迷いが生じます。しかし、何もしなければ、変化への対応ができるはずはありません。

「変化に対応する行動」をとるためには、まずは、色々なものを「手放す行動」が必要になってきます。手放すものには、過去の成功体験、年下に教わることへの抵抗感、しくじることの恥ずかしさなどがあります。これらを捨ててから、「新しい環境に対応していく行動」へと移れます。


手放すものには、次のようなものがあります。


○過去の成功体験への固執

成功体験は大事ですが、過去のものです。成功体験の気分をいつまでも持ち続けるのではなく、手放してしまうことが大事です。成長の糧になるのは、過去の成功体験ではなく、「成功するために行った努力や行動」です。

○知らないことを聞くのは恥だという意識

「中年」になると後輩や部下に、自分が知らないことを恥ずかしくて聞けないという気持ちが出てくる人が多くなります。後輩たちに自分の弱みや格好悪い部分を見られたくないという気持ちが働くからです。「聞くことを恥だ」と思うより、「知らないままにしていたり、知ろうとしなかったりすることを恥と考える」いう意識に変えていきましょう。

〇しくじりが恥ずかしいという意識

しくじればしくじるほど、行動したくないという気持ちが強化されます。しくじるぐらいならば、何もしない方がいいという論理を作ってしまい、行動しなくなります。「変化に対応したためにしくじるのが駄目なのではなく、変化に対応しない気持ちが駄目なのだ」と考え直してください。




5.人事部門や企業が「中年」に対してできること

「変化に対応する行動をする人を大切にする」という経営者のメッセージを発信することが大事です。人事部門や企業は、そういう行動をする人が損をしない制度をつくる必要があります。しくじりをしたらバツを付けるのではなく、「素晴らしい挑戦だ」と評価してあげる仕組みをつくることが大事です。「中年」が挑戦する姿を見て、若い世代の人たちも挑戦し、成長していくはずです。そのようなよい風土を作ること、変化に適応できる企業になる仕組みを作ることが、人事部門の役割です。




6.連載を振り返って

第1回は「中年」についてのイメージを共有しました。第2回では外部環境変化の把握・予測が大事であることを、第3回では変化に適応するための「40歳定年制」という考え方を説明しました。変化に適応していくうえで、第4、5回は「キャリアデザイン研修」で「キャリアの棚卸し」をし、自己理解や環境理解をすることが大事であることを、そして、第6回は、変化に適応するためには、まず、手放す行動が大事だと説明しました。この連載のキーワードは、「変化への適応」です。若い頃は自然に対応できていた「変化への適応」を、「中年」以降は、意識して実施していく必要があります。その意味を込めて、次のフレーズで、この連載を終えたいと思います。

「強い者が生き残るのではない。変化に適応できる者が生き残るのだ」








以上、7月から6回にわたり、泉田先生には、『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』をテーマに、企業/人事部門の立場から、中年期を迎えた人が今後どのようにキャリア形成を行っていけばよいのかについて、ご寄稿頂きました。
次号からは6回の予定で引き続きキャリア形成について、人的マネジメントの視点から、立正大学経営学部准教授の西岡由美先生に、連載頂きます。どうぞお楽しみに。


以上




筆者プロフィール

泉田 洋一 氏(中央職業能力開発協会CSCスーパーバイザー)
学習院大学 理学部数学科卒
27年間、IT企業に勤務し、主に、人事、人材育成を担当。SEの新人/若手教育、選抜者研修/昇格者研修、キャリアデザイン研修(27歳、32歳、42歳、55歳)を担当。日本人材マネジメント協会会員。国家資格・1級・2級キャリアコンサルティング技能士。
メンタルヘルス・マネジメント検定擬鏐膤福産業カウンセラー。