キャリア塾
2016年8月号(8月25日発行)
中央職業能力開発協会
CSCスーパーバイザー
泉田 洋一 氏

『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』(第2回)

この連載では、『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』を、企業/人事部門の観点から紹介して行きます。初回である前回は、キャリア理論上の「中年」の定義を説明しました。前回の要点は、次の通りです。


この連載では、「中年」を45歳〜54歳ぐらいの方とします。
心理学者ユングは、中年期は、人生の午前から、午後への移行期で、頂点を「人生の正午」と呼びました。中年期は、人生の後半であり、(本人たちは認めたくはないでしょうが、)下降が始まる時期ということになります。
キャリア研究者スーパーによると、中年期は、親、家庭人、配偶者、労働者、市民、余暇、学生、子どもの役割が重複していることになります。つまり、中年は、それだけ多くの役割を担っている、大変な時期ということになります。
中年期を迎えた多くの方々が、「これからの残りの人生(含む:職業人生)をどうしたらいいのか? このままでいいのだろうか? 変わるとすればどう変わっていったらいいのだろうか?」と思い悩みます。これを、中年期の危機といいます。


前回の内容から、中年期は、見た目以上にナイーブな時期であることがわかっていただけると思います。

孔子は、「四十にして惑わず」と言ったそうですが、現在の中年は、迷うことばかりでしょう。それが普通なのだと思います。今回からは、迷い事/悩みごとの多い中年の方へのキャリア支援をするには、どのような視点が必要かを説明していきます。



1.キャリアの短期視点と中長期視点

キャリアを考えるには、短期視点だけでなく、中長期視点が必要です。人は、つい目の前のことばかりに捉われがちですが、中長期的なキャリアを考え、その後、短期的なキャリアを考えていくことがよいと思われます。

中年期は人生の折り返し地点でもあり、職業人生の折り返し地点でもあります。ですから、中年の場合の中長期視点として、定年というイベントは外せません。今は、定年延長後、雇用延長として働く人が増えました。定年・雇用延長と言う大きな節目を、中年期のうちから、しっかり考えておくことが大事です。

次に、定年・雇用延長に関する法律である「高年齢者雇用安定法」について簡単に説明します。




2.高年齢者雇用安定法

年金の支給年齢の引き上げに伴い、「高年齢者雇用安定法」が2006年に改訂されました。要点は、次の通りです。

企業は、次のいずれか1つを選んで実施する義務があります。
  (1) 定年の引き上げ
  (2) 継続雇用制度の導入
  (3) 定年制の廃止

多くの企業は、「(2) 継続雇用制度の導入」を実施しています。

「高年齢者雇用安定法」は、2013年にさらに改訂されました。要点は、次の通りです。

(1) 対象者を限定できる仕組みの廃止
(2) 対象者を雇用する企業の範囲の拡大(グループ企業にまで拡大)


(1)の「対象者を限定できる仕組みの廃止」により、事業主は雇用延長を希望する方全員を、雇用延長することになりました。勘違いされることが多いのですが、事業主には、雇用延長希望者の希望通りの労働条件を用意する義務はありません。事業主には65歳までの安定した雇用を確保する措置を義務付けているだけです。ですから、労働条件で折り合いがつかず、雇用継続に至らないという場合もあることに注意する必要があります。

雇用延長を希望される方は、「雇用延長後も、今の仕事を続けたい」と希望される方が多いです。これは、企業にとっても、再教育をせずに、雇用延長前の賃金より安く仕事をしてもらえるので、好都合です。

しかし、今、中年になったばかりの方々が雇用延長になるころには、現在従事している仕事がなくなっている可能性があります。時代の要求や技術革新にともない、労働者に求められる仕事は変化していきます。中年の方は、今、仕事ができているからと言って安心せず、時代に変化した仕事に対応できるようになる必要があります。職業人生の折り返し地点を越しても、常に、学び続ける姿勢は必要です。




3.これからの大きな変化

「同一労働同一賃金」という考え方が、最近話題になっています。これは、正規雇用/非正規雇用かに関係なく、同一の労働をしたのならば、同一レベルの賃金を払うべきだとする考えです。「同一労働同一賃金」を実現するには課題が多いですが、今の中年の方たちが雇用延長になるころには、実現しているかもしれませんので考えておきましょう。

現在は、雇用延長になると、雇用延長前と同じ仕事をしていても、給料が半分ぐらいになることがよくあります。しかし、「同一労働同一賃金」という考え方を実施すると、雇用延長前と同じレベルの給料になります。では、企業はこの「同一労働同一賃金」に対応するのでしょうか? 次のようなことが考えられます。

(1)雇用延長者の賃金を、雇用延長前の賃金と同じレベルにする。
(2)雇用延長者の業務内容を、雇用延長前の業務内容より、容易/責任の小さなものとして、賃金を下げる。
(3)雇用延長前の賃金を下げ、雇用延長後の賃金へのスムーズな移行をする。

現実的には、(1)よりも、(2)や(3)が多いと筆者は予想しています。(2)や(3)になった時のためにも、モチベーションをどう維持していくか、マネープランに影響はないかを、中年期から検討しておくのがよいでしょう。

現在の中年の方が、雇用延長になるころは、今までSFの世界の話だった、ロボットやAI(artificial intelligence:人工知能)により、仕事の仕方が変わっている可能性があります。働き続けるのならば、常に、新しい技術を身につけたり、仕事の幅を広げていったりする必要があります。

このように、キャリアの中長期的視点を考える際には、外部環境の把握・予測が大事になってきます。中年になった人は、雇用延長はまだまだ先だと考えているかもしれません。しかし、避けられない大きな変化が、近くにあるということを認識していただきたいと思います。避けられない大きな変化に対応していくには、自分の強みを伸ばして、エンプロイアビリティを確保していく、自ら新しい仕事を求めていくしかないのです。

次回は、「40歳定年」という考え方を紹介します。

以上

筆者プロフィール
泉田 洋一 氏(中央職業能力開発協会CSCスーパーバイザー)
学習院大学 理学部数学科卒
27年間、IT企業に勤務し、主に、人事、人材育成を担当。SEの新人/若手教育、選抜者研修/昇格者研修、キャリアデザイン研修(27歳、32歳、42歳、55歳)を担当。日本人材マネジメント協会会員。国家資格・1級・2級キャリアコンサルティング技能士。
メンタルヘルス・マネジメント検定擬鏐膤福産業カウンセラー。