キャリア塾
2016年6月号(6月30日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

前回は、新入社員研修の内容や方法などについてご紹介しました。今回は、新入社員や若手社員に対するOJTの進め方について考えてみたいと思います。



1.新入社員や若手社員に対するOJTの進め方

まず、OJTを進めるうえでのポイントを2点挙げてみましょう。第1に重点的であることです。例えば、上司として新入社員や若手社員をみると、「あれも足りないし、これも足りない」「もっと、○○ができるようになってほしい」などと、さまざまな面での能力不足が目につきがちです。しかし、それらすべての能力を向上させようとすることは現実的ではありません。無理にやっても、どれも中途半端な結果になってしまいます。そこで、重要度や緊急度の高いもの、育成効果の大きいものに対象能力を重点的に絞り込むことが必要です。「あれもこれも」ではなく「あれかこれか」。これがOJTの第1のポイントです。

そして、第2のポイントは計画的であることです。これは、(1)どのような能力を、(2)いつまでに、(3)どのレベルまで、(4)どのような成功体験(場合によっては失敗体験)をさせて向上させるのか、を明確にすることです(図表1参照)。つまり、目標をしっかりと定めたうえで、OJTに取り組むことが大切です。ですから、気がついたときにその場ですぐに指導するようなやり方は、あまりにも無計画といわざるを得ません。ゴール(目標)のないマラソン(努力)をさせることは、本人を疲弊させるだけです。






2.育て上手な上司とは

次に、若手社員に対するOJTに関する実証調査の結果を紹介しましょう。東京大学の中原淳氏は、部下の能力向上のためには、上司がどのような業務経験を部下に付与すればよいのかを明らかにすることを目的として、社会人歴2年目の若手社員を対象としたWeb調査を実施しました(中原淳『経営学習論』東京大学出版会,2012年)。

まず、上司による業務経験付与行動として39の質問項目を用意し、「よくあてはまる」〜「まったくあてはまらない」の5件法で回答を求めました。そして、回答データを因子分析という統計手法を用いて分類した結果、次の3要素が抽出されました。



(1) 内省支援(モニタリングリフレクション)…「上司は、仕事の最中に励ましてくれる」「上司は、あなたが仕事でつまずいたときの相談役になってくれる」「上司は、あなたの仕事の成果を褒めてくれる」など、上司が部下の進捗管理を行う行動と、「上司は、あなたが自分の仕事内容を振り返る機会を与えてくれる」「上司は、あなたの仕事について新たな視点を与えてくれる」など、上司が部下に内省を促す行動が含まれます。
(2) 仕事説明…「上司は、あなたに任せる仕事の意義について説明してくれる」「上司は、あなたに職場の仕事の全体像と任せる仕事の関係について説明してくれる」「上司は、あなたに任せる仕事の前工程と後工程について説明してくれる」など、上司が部下に対して仕事の説明をする行動です。
(3) ストレッチ…「上司は、あなたに背伸びが必要な仕事を任せてくれる」「上司は、あなたの能力より若干高めの仕事を担当させてくれる」など、部下の能力伸長を意図して業務を割り当てる行動です。


次に、この3つの業務経験付与行動と部下の能力向上との関係をパス解析という統計手法を用いて分析しました。その結果が図表2です。上司による「仕事説明」が、「ストレッチ」や「内省支援」にプラスの影響を与え、それらを介して部下の「能力向上」にプラスの影響を与えています。





このことから、部下の能力向上を図るには、まず、上司が仕事の意義や全体像、前工程や後工程との関係などを部下に説明することが必要です。そのうえで、現在の能力をやや上回るようなストレッチな業務経験付与や、定期的なフィードバックと内省支援を行うことが有効であることがわかります。

もう1つ、示唆に富む知見をご紹介しましょう。北海道大学の松尾睦氏は、経験学習理論の視点から「経験から学ぶ力」として、次の3要素の重要性を指摘しています(松尾睦『「経験学習」ケーススタディ』ダイヤモンド社,2015年)。

 (1)ストレッチ(挑戦する力)…挑戦的な高い目標を設定し、それに取り組む力
 (2)リフレクション(振り返る力)…自分の行動や経験を内省し、振り返る力
 (3)エンジョイメント(楽しむ力)…仕事の中にやりがいや楽しさを見出す力


そして、実証調査の結果を踏まえて、育て上手といわれるOJT担当者は、部下や後輩の「経験から学ぶ力」を高める形で指導していることを明らかにしています。具体的には、部下や後輩がうまくストレッチすることを助け、リフレクションを促し、エンジョイメントを感じさせるようなフィードバックをしていました。

松尾氏のいう部下自身のストレッチ(挑戦する力)は、中原氏のいう上司によるストレッチと対応します。同様に、松尾氏のリフレクション(振り返る力)は、中原氏のモニタリングリフレクション(内省支援)と対応します。さらに、部下自身のエンジョイメント(楽しむ力)を高めるには、上司による仕事説明が必要となります。


最後に、以上の知見を踏まえて、前回触れた「やりたいこと志向」への対応を考えてみましょう。上司が仕事の説明をする際に、「やりたい仕事」にすぐに就けるわけではないこと、組織からの役割期待である「やるべき仕事」があること、「やるべき仕事」で得た経験は後になって必ず生きてくることなどを伝え、部下に任せる仕事を意味づけることがポイントとなります。加えて、結果の成功・失敗にかかわらず、まずは労をねぎらう言葉をかけ、良かった点を褒めるなど、上司がポジティブなフィードバックを行うことも、部下や後輩の「やるべき仕事」に対するやりがいや関心を高めることにつながるでしょう。

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以上、昨年の7月の創刊号から12回にわたり、高橋先生には大学でのキャリア教育、企業内でのキャリア支援、学校から職業への移行、新入社員教育の4つの柱で、主に若年者のキャリア形成支援について寄稿頂きました。

次号からは『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』をテーマに、1年間の予定で連載していきます。7月号の初回から12月号までは、国家検定1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー等の資格を持ち、人材育成の分野で多方面に活躍されている中央職業能力開発協会CSCスーパーバイザーの泉田洋一氏に、企業現場からの視点で40代〜50代のキャリア支援についてご執筆頂きます。どうぞお楽しみに。