キャリア塾
2016年5月号(5月26日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

前回は、新入社員・若手社員に対する教育研修が求められる背景として、
(1)リアリティショックや「やりたいこと志向」を理由とする早期離職者の多さと、
(2)職場における人材育成機能の低下
  を指摘しました。
また、彼らに対する教育研修の目的を、
(1)新規参入者の組織適応(定着化)と、
(2)職務遂行能力の向上(戦力化)
の2つに整理しました。これらのことを踏まえて今回は、新入社員研修の内容や方法などについてご紹介したいと思います。



1.入社初期の社員の配置や育成で重視すること

図表1は、最近の学卒新入社員の印象について、企業担当者に対して複数回答で尋ねた調査結果です(労働政策研究・研修機構「入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査」2012年)。これを見ますと、職場でうまくコミュニケーションが図れない、チャレンジ精神や問題解決意欲が低い、論理的な説明力が足りないなどの一方で、自分のやりたい仕事をしたいと考える「やりたいこと志向」が強いという新入社員像が浮かび上がってきます。




出所:労働政策研究・研修機構「入職初期のキャリア形成と世代間コミュニケーションに関する調査」2012年,p.19より筆者作成



そこで同じ調査で、入社初期(入社3年目くらいまで)の社員の配置や育成において重視していることを複数回答で尋ねた結果、「社員一人ひとりが担っている役割を理解させ、働きがいを高める」(70.2%)、「経営方針の理解などを通じて、組織の一員としての自覚を持たせる」(67.7%)が上位2項目となっています。これらはおそらく、企業では「やりたい仕事」だけではなく、組織の一員として「やるべき仕事」があることを理解させるということだと思われます。

そして第3位は、「社員相互理解のためのコミュニケーション能力を高めること」(63.5%)でした。このように、仕事を意味づけることによる動機づけとコミュニケーション能力の向上が、入社初期の社員の配置や育成における重要課題となっています。




入社前研修は、内定辞退の防止や入社企業に対する理解促進などを目的として、主に通信教育やeラーニングなどの方法を用いて内定者に対して実施します。また、内定者同士あるいは先輩社員との懇親会の場を設けたり、内定者向けインターンシップなどと称して、自社でアルバイトをする機会を設けたりする企業もあります。

入社直後から行う導入研修は、人事・教育部門の主管による集合研修の形式が一般的です。研修期間は2〜3日、1〜2週間、1〜2か月など、企業によってさまざまです。そこでは、経営理念・目標・方針、企業概要・部門概要、社員としての行動指針、就業規則等の諸規程、企業倫理・法令遵守、安全衛生・健康管理などを教育します。併せて、ビジネスマナー、職場でのコミュニケーション、仕事の進め方(例えば報告・連絡・相談、PDCAサイクル)などについてトレーニングを行うことが一般的です。

また、現場実習では、自社の工場や販売店などの現場で一定期間に渡って実務に取り組むことを通して、自社内の各部門やそこでの仕事について理解を深めます。

各職場へ配属後は、ライン部門が主管となってOJTが行われます。OJTは、上司・先輩が持っている知識・スキル・ノウハウなどを上から下に向かって教え授けることではありません。部下や後輩のある能力を、一定の期限内に、期待するレベルまで向上させるために、最も効果的な経験の場づくりをすることです。OJTの進め方については次回で取り上げたいと思います。

また、配属後の一定期間が経過した段階で、人事・教育部門によるフォロー研修が行われます。ここでは、実際の仕事で直面したリアリティショックや悩みなどを取り上げ、新入社員同士の話し合いなどを通して、それらを乗り越えるための方向性や今後の課題を見い出します。これとは別に、人事・教育部門のスタッフが新入社員と定期的に個別面談を行うことによってフォローアップを図る企業もあります。


ここまで定着化と戦力化を目的とした新入社員研修の内容と方法について見てきました。当然のことですが、「こうすれば、絶対にうまくいく」というような唯一全体の方法論があるわけではありません。経営陣の関与度合い、ライン部門の協力度合い、組織文化や風土など自社の実情を踏まえながら、新入社員の成長のために知恵を絞ることが大切です。



次回は、新入社員・若手社員に対するOJTの進め方について考えます。