キャリア塾
2016年4月号(4月28日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

前回までは、学校から職業への移行に伴う課題について考えてきました。年度が改まった今回からは3回にわたって、新入社員や若手社員の教育研修(Off-JTやOJT)を取り上げてみたいと思います。まずは、これらの教育研修が求められる背景や目的について考えてみましょう。

1.新入社員・若手社員の教育研修が求められる背景

新規学卒者の定時一括採用が定着している日本では、毎年4月に数多くの若年者が組織に新規参入してきます。彼ら・彼女らに対する教育研修が必要とされる背景や理由は種々あると考えられますが、ここでは特に早期離職者の多さと、職場における人材育成機能の低下の2点を指摘しておきたいと思います。


(1)早期離職者の多さ

新規学卒者の早期離職については、中卒者の約7割、高卒者の約5割、大卒者の約3割が3年以内に離職してしまう「七・五・三問題」が指摘されています。図表1は大卒者に絞って離職率の推移を示したものですが、平成7年(2005年)以降、「三年三割問題」が続いていることが分かります。せっかく多くの時間とコストをかけて新規学卒者を採用し、教育したにもかかわらず、早期離職者が数多く出てしまうことは組織にとっての損失です。


図表1 新規大卒就職者の在職期間別離職率の推移

出所:厚生労働省職業安定局


では、若年者はどのような理由で早期離職するのでしょうか。図表2は、35歳未満の在職者(正社員)であって過去に転職経験のある人に、前職の離職理由を複数回答で尋ねた結果です。

最も多いのは「給与に不満」であり、以下「仕事上のストレスが大きい」「会社の将来性・安定性に期待が持てない」「労働時間が長い」「仕事がきつい」が上位5位となっています。これらは、理想や期待と現実とのギャップから生じるリアリティショックの表出と思われます。それを裏づけるデータがあります。35歳未満の正社員を対象に最近実施された別の調査を見ると、3割に及ぶ人が「給与水準」「労働時間の長さ」「休暇の取得しやすさ」などに関して、採用前に提示された求人情報と実際の労働条件との間にギャップを感じています(労働政策研究・研修機構「正社員の労働負荷と職場の現状に関する調査」2015年)。

また、6位に「仕事が面白くない」、8位に「キャリアアップするため」、9位に「昇進・キャリアに将来性がない」という理由も見受けられます。これらの背景には、自分自身のやりたいことや好きなことを働くことと結びつけて考える傾向である「やりたいこと志向」があるのではないでしょうか。

2015年11月号の本コーナーでも指摘したとおり、近年の新卒採用選考では、エントリーシートでも面接試験においても、自己PRや志望動機に加えて、入社後に何をやりたいのか、どのような社員になりたいのかを尋ねられます。ですから、それらを考え抜くことによって内定を獲得し入社してくる新入社員をはじめとした若手社員は、「やりたい仕事」に関する明確なイメージを持って組織に入ってきます。しかし実際に働いてみると、すぐに自分の「やりたい仕事」をやらせてもらえることは少なく、「やるべき仕事」を担当します。そこで、早く成長したいと考える若年者が「この会社にいても、自分のキャリアにプラスにはならない」などと感じ、離職に至ったものと考えられます。

新入社員や若手社員に対する教育研修を実施する背景の1つには、こうした早期離職者を減らし、採用や定着に要した時間とコストの損失を減らすねらいがあります。



出所:労働政策研究・研修機構「若年者の離職理由と職場定着に関する調査」2007年,p.40より筆者作成


(2)職場における人材育成機能の低下

新入社員や若手社員に対する教育研修が求められる背景として、職場における人材育成機能が低下している点も見逃せません。このことを示すデータをいくつかご紹介しましょう。

「平成27年度能力開発基本調査」(厚生労働省,2016年)によれば、能力開発や人材育成に何らかの「問題がある」とする事業所は71.6%に上り、具体的には「指導する人材が不足している」(53.5%)や「人材育成を行う時間がない」(49.1%)などの課題を抱えています。

また、先ほども紹介した「正社員の労働負荷と職場の現状に関する調査」(労働政策研究・研修機構, 2015年)によれば、現在の職場に対する認識を個人に尋ねた結果、50.7%の人が「教育訓練や能力開発の機会が与えられない」と回答し、併せて「自分の能力が高まらない」(58.3%)や「キャリアの方向性がみえない」(64.9%)と感じています。

さらに、「第6回メンタルヘルスの取り組みに関する企業アンケート調査結果」(日本生産性本部,2012年)によれば、職場や働き方の変化について担当者に尋ねたところ、「職場に人を育てる余裕がなくなってきている」(76.2%)という回答が最も多くなっています。そして、こうした変化が起きている企業では、心の病の増加傾向が高いことが報告されています。

バブル経済崩壊以降の組織のスリム化や少数精鋭化によって、職場には質、量ともに人的な余力がありません。また、成果主義の導入によって短期的な成果創出に重きが置かれると、中長期的な視点が必要となる人材育成は後回しにされがちです。その結果、人材育成や協働などの職場が有していた機能が低下してしまいました。一橋大学大学院教授の守島基博氏は、こうした職場機能の衰退を「職場寒冷化」と呼び、それが従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与え、企業の競争力を削いでいると指摘しています。そのため、職場における人材育成機能の低下を食い止め、もう一度人が育つ職場を再構築することが喫緊の課題となっています。



2.新入社員・若手社員の教育研修の目的

以上のような背景を踏まえると、新入社員や若手社員に対する教育研修の目的は、次の2つに整理できるでしょう。


(1)新規参入者の組織適応(定着化)

新規参入者が直面するリアリティショックを乗り越えられるようになることや、組織の一員として「やるべき仕事」の意義を理解できるようになることも含めて、組織の価値観や規範、求められる行動を身につけて組織適応を図ることです。換言すれば、新規参入者の定着化です。


(2)職務遂行能力の向上(戦力化)

Off-JTやOJTを通して、新入社員や若手社員の職務遂行能力を向上させること、端的に言えば戦力化です。その際、同じ組織であっても職種ごとに求められる専門知識・スキルは異なります。他方、社会人基礎力やキー・コンピテンシーのように職種を越えて共通する汎用的な能力もあります。新入社員や若手社員の場合、社会人としての基礎を固めるという意図から、後者の汎用的能力の向上に重きを置くケースが多いでしょう。



次回は、新規参入者の組織適応を目的とした新入社員研修とその後の定着支援活動について考えます。