キャリア塾
2016年2月号(2月25日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

前回は、学校から社会・職業への移行に関する課題の1つとして、採用選考の事情をお伝えしました。今回は、学生生活でのさまざまな経験と初期キャリアとの関連性について考えてみましょう。

1.調査データからみる就職活動の成功要因

「自分が希望する職業に就くためには、どのような学生生活を送ればよいのでしょうか?」

しばしば、このような質問を学生から受けます。多くの学生にとって、初期キャリアとしての就職はとても大きな問題なのです。とても一言で説明できることではありませんが、その解の手がかりとなる調査データをいくつかご紹介しましょう。

田澤実氏と梅崎修氏の調査結果によれば、学業成績の良さ(優の割合が多いこと)、ビジョンの明確さ(将来に向けた夢や目標、やりたいことが明確であること)、アクションの活発さ(人に会ったり、さまざまな活動に参加したりすること)が、学生が内定を獲得する確率を高めていました(田澤実・梅崎修編著『大学生の学びとキャリア 入学前から卒業後までの継続調査の分析』法政大学出版局,2013年)。

また、大学での勉強に対する4年生時点での学生の自己評価と、入学時における卒業後の進路希望が内定獲得とプラスの関連性を示していたというデータもあります。つまり、大学での学業に熱心に取り組んだことと、将来の進路を具体的に考えていることが内定獲得にプラスの影響を与えていたのです(松高政「大学の教育力としてのキャリア教育」京都産業大学論集(社会科学系列),25,2008年)。

さらに、大学生活の重点と初期キャリアの成否との関連性を調査した興味深いデータがあります(「就職時の探求:「大学生活の重点」と「就職活動・就職後の初期キャリアの成否」の関係を中心に」,中原淳・溝上慎一(編)『活躍する組織人の探求 大学から企業へのトランジション』所収,東京大学出版会,2014)。少し詳しく見ていきましょう。

この調査は、25〜39歳のビジネスパーソン1,000名に、大学時代を回想して回答してもらったものです。まず大学生活で重点を置いたことは、「何事もほどほどに」が20.9%と最も多く、次いで「豊かな人間関係」20.4%、「アルバイト・貯金」14.8%、「勉学第一」14.2%、「クラブ第一」13.0%という順でした(図表1)。

次に、「大学生活、就職活動の自分の過ごし方やその結果を振り返って、○(肯定的)か×(否定的)で評価すると、どうなりますか」という質問への回答と、大学生活の重点との関連性を調べました。その結果、大学時代に「豊かな人間関係」「資格取得第一」「クラブ第一」を重視していた学生ほど、大学生活を肯定的に捉えていました(それぞれ94.1%、91.4%、87.7%)。他方、「何となく」「アルバイト・貯金」「何事もほどほどに」というタイプは、大学生活を否定的に捉えていました(それぞれ67.6%、29.7%、26.6%)。

また、「資格取得第一」「豊かな人間関係」を重視していた学生ほど、「いろいろな会社を見ることができた」「いろいろな人と話をすることができた」などと、自分の就職活動を肯定的に捉えていました(それぞれ75.8%、73.2%)。他方、「何となく」「趣味第一」というタイプは、就職活動を否定的に捉えていた回答が多くなっています(それぞれ63.3%、47.2%)。

つまり、目的意識もなく「何となく」大学生活を送った人ではなく、授業に加えて課外活動などで多様な他者と関わり「豊かな人間関係」を築いた人や、将来就きたい仕事や就職のために「資格取得第一」という明確な目標を持って努力した人が、大学生活の充実感や就職活動の成功感につながることがわかります。なお、「勉学第一」で大学生活を送った人は、大学生活にも就職活動に対しても、必ずしも肯定的ではありません。これは、一人だけでの学びだけではなく、他者との関わりを持つ学びや経験が重要であることを示唆していると考えられます。





最後に、筆者が短大生を対象に実施した調査結果をご紹介しましょう。この調査では、キャリア教育を中心とした在学中の学びが、学生の就職に与える影響を明らかにすることを目的として、内定獲得の有無および就活期間(内定獲得までの期間)を規定する要因を定量的に調べました。その結果、(1)傾聴力が高いこと、(2)自分の将来について明確なキャリアビジョンを持つこと、(3)正課活動であるインターンシップに加え、正課外活動であるアルバイトやボランティア活動も含めて幅広い経験を積むことが、内定獲得の確率を高めることが示されました。また、時事問題や社会マナーの得点が高く、ボランティア活動の経験が有ると就活期間が短く、内定をより早く獲得できるという結果が得られました(高橋修「短期大学での学びと就職との関連性―キャリア教育を中心に―」高崎商科大学紀要,29,2014年)。



2.調査結果からの示唆

以上の調査結果を整理しますと、(1)自分の将来について明確なキャリアビジョンを持つこと、(2)学業や資格取得に熱心に取り組むこと、(3)正課活動に加え正課外活動にも積極的に参加し、幅広い経験を積むことが、就職活動や内定獲得にプラスの影響を与えるといえるでしょう。

エリクソンが述べたように、本来、青年期はアイデンティティ確立のためのモラトリアム(猶予)期間であり、積極的に「自分さがし」や「役割実験」をする時期です。しかしながら、現代の若者は流動化する社会規範や価値観に悩み、リスクや失敗を恐れて「自分さがし」や「役割実験」を行えなくなっているという指摘もあります。

そうであればこそ、こうした調査結果を示しながら、将来の夢や目標を捜し求めること、その実現に向かって失敗も含めてさまざまな経験をすることの重要性を学生に伝えていきたいものです。

もちろん、初期キャリアの成否については、内定獲得の有無だけではなく、就職先に対する満足度(第一志望か否か)、最初の配属先に対する満足度、就職後の離転職の有無など、複数の視点から評価されなければなりません。したがって、学生が卒業した後も継続的にフォローしながら、これらの調査データを蓄積していくことがこれからの課題といえるでしょう。



次回は、社会が求める人材ニーズと大学教育について考えます。