キャリア塾
2016年1月号(1月28日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

このコラムでは、7〜9月の3回にわたって大学や短大におけるキャリア教育の一端をご紹介しました。10〜12月の3回では、組織内キャリア・コンサルティングの活動内容について考えてきました。

今回からは3回の予定で、学校から社会・職業への移行に関する諸課題について考えてみたいと思います。まず今回は、採用選考についてです。

1.採用選考の一般的なステップ

まず採用選考の一般的なステップを整理しておきましょう。採用選考とりわけ新規学卒者の場合では、

(1)履歴書やエントリーシートによる書類選考
(2)適性検査、作文・小論文などの筆記試験
(3)グループ・ディスカッション、集団面接、個人面接などの面接試験

というステップを通して、応募学生のスクリーニング(絞り込み)および採否の意思決定が行われます。

エントリーシート(企業独自の応募書類)に、応募学生は、自己PR、学生時代に注力したこと、志望動機、入社後の希望職種などの記入を求められます。例えば「五七五の形式で自分を表現してください。そして、その意図を200字で説明してください」など、中には記入に手間がかかる設問もあります。「これって、どう書いたら良いですか?」と学生から個別相談場面に持ち込まれ、相談員のこちらも一緒に考え込んでしまうこともあります。

適性検査は、性格適性検査と能力適性検査に大別されます。性格適性検査は、その人らしいものの見方や感じ方など、状況や時間を超えてある程度一貫し安定した性格を測定します。一方の能力適性検査は、読み書き能力、数的処理能力、論理的思考力、外国語能力、一般教養・常識、時事問題など、基礎的な知識やスキルを主に測定します。このような基礎的な能力によってスクリーニングを行うのは、出身学部・学科の異なる多様な応募者の能力を共通の尺度で測定することができ、選考過程の公平性が確保できるからです。この適性検査をクリアできないと、次の面接試験に進むことができません。そこで学生たちは、いわゆる“対策本”と格闘することになります。

面接試験の初期段階で採用されることが多いのが、グループ・ディスカッション(以下、GD)です。5〜10人の応募学生を1グループとして、30分程度の制限時間内で、例えば「グローバル人材に必要なものは何か?」など、一義的な正解がないようなテーマについてディスカッションを行い、グループとしての結論を導きます。採用側はその議論のプロセスを観察しながら、応募学生各人の積極性、協調性、リーダーシップ、判断力などを評価します。このGDに関しても、「一体、どのようなテーマが出題されるのでしょうか?」「自ら手を挙げて司会進行役を引き受けたほうが、好印象になりますか?」など、学生たちの悩みは尽きません。

このように現代の学生は、相当の時間をかけて準備をしたうえで、以上のような幾重ものハードルをクリアして内定を獲得しているのです。



2.採用選考スケジュールの変更がもたらしたもの

採用選考スケジュールをめぐっては、以前より産業界と大学側で話し合いが行われてきました。1953〜1996年には、両者の間に「就職協定」が存在していました。当時は、大学4年生の8月から会社訪問開始、10月から選考活動開始というルールでした。しかし、開始日以前から選考活動を始める企業が出るなど、就職協定が形骸化したために、1997年春卒業者から廃止されました。

その後大学側は、国公私立大学等で構成する就職問題懇談会の場で就職に関する「申合せ」を行い、産業界は「採用選考に関する企業の倫理憲章」(以下、倫理憲章)を定めてきました。しかし、就職協定の廃止後は、選考活動の開始時期はさらに早まりました。

このため、日本経済団体連合会(以下、経団連)は倫理憲章を大幅に見直し、2012年からは広報活動開始を3年生の12月、面接などの実質的な選考活動の開始を4年生の4月からとしました。さらに、2013年には「採用選考に関する指針」(以下、指針)を示し、2015年からの広報活動開始を3年生の3月、選考活動開始を4年生の8月へとスケジュールを後ろ倒しにしました(図表1参照)。これは政府の意向も踏まえた措置で、(1)学修時間の確保、(2)留学等の推進、(3)インターンシップ等キャリア教育の早期実施の3点をねらいとしていました。





それでは、採用選考スケジュールが変更となった2015年は、学生の就職活動に何をもたらしたのでしょうか。結論を先に言えば、就職活動の長期化と“オワハラ”の発生です。

経団連加盟企業(主として大手企業)は、表向きには指針を遵守する姿勢を取りました。他方、経団連に非加盟である外資系やIT系企業、あるいは中堅・中小企業などは、指針にとらわれることなく選考活動を開始し、4月以降には早々と内々定(内定と呼べるのは10月以降)を出し始めました。8月以降に選考が始まる大手企業を第一志望とする学生であっても、その第一志望から内定を獲得できる保障はどこにもありません。そこで、「まずは、この会社から内々定を得ておこう」となりました。

そして、運命の8月を迎えます。経団連加盟の大手企業は、短期間で集中的に面接試験を行い、開始から1〜2週間程度で内々定を出しました。その結果、8月以降に内々定を得た学生が、それ以前に得ていた内々定を辞退し始めました。加えて、大手企業同士でも学生を奪い合うような状態となり、辞退者が相次ぎました。かくして、大手か中堅・中小かを問わず、秋口になっても採用計画数を確保できない企業が続出し、2次募集が行われました。それを見た学生の中には、内々定を得ていても2次募集の求人に惹かれて就職活動を継続した人もいました。このようにして、いつまでたっても就職活動が終わらない長期化という状況が発生しました。

また、その過程で“オワハラ”という言葉も生まれました。これは、学生の意思に反して就職活動の終了を強要するハラスメントのことを意味します。例えば「内々定を出しますから、この場で、就職活動中の他社に断りの電話を入れてください」、「就職情報サイトの会員登録を今すぐに解除して、就職活動を終わりにしてください」、自由応募にもかかわらず「内々定ですから、承諾書と学部長名の推薦状を○月×日までに提出してください」など。辞退者を減らし1人でも多くの学生を確保したいという企業心理の表れでしょうが、学生たちは困惑しました。「平成27年度就職・採用活動時期の変更に関する調査結果(10月1日現在、速報版)」(就職問題懇談会,2015年)によれば、83.4%もの学生がこうした“オワハラ”を受けたと回答しています。

ちなみに、学生に対する“オワハラ”は企業だけではありませんでした。いつまでたっても大学に戻ってこない学生に、ゼミ担当教員が「まだ終わらないの? 卒業研究どうするの?」。わが子の将来を案ずる親は、恐る恐る「まだ終わらないのかい? 近所の○○君は決まったみたいだけど……」。こうした言動が学生を疲弊させてしまったという面も否めません。




3.採用選考のあるべき姿とは

以上のような2015年に生じた問題点を放置したままにするわけにはいきません。そこで、朝令暮改との批判を受けつつも、「2016年以降の広報活動開始は3年生の3月、選考活動開始は4年生の6月」というスケジュールで経団連と就職問題懇談会が合意しました。つまり、広報活動の開始時期は変更せず、選考活動開始時期を2カ月前倒しにしたのです(図表1参照)。

短期的には、この変更によって今年のような長期化は緩和されると思われます。しかし、中長期的な視点に立てば、採用選考スケジュールの修正ですべての問題が解決するわけではありません。「学校から社会・職業への移行過程とは本来どうあるべきか」を考えていかなければなりません。

産業界としては、新卒定時一括採用だけではなく、通年採用や既卒者採用を増やす必要があるかもしれません。そうすれば、5〜6月に帰国することが多い留学経験者の採用も可能となります。一方の大学側としては、職業選択に際して大手企業やBtoC(Business to Consumer:企業対消費者間取引)企業ばかりに目が向きがちな学生の視野拡大に取り組む必要があります。そのためには、低学年からのフィールドワークやインターンシップなどを通して、社会や職業の現場・現物・現実に触れさせる機会を増やしていくことが必要だと思います。これは、キャリア教育を担当している私自身の課題でもあります。




次回は、学生生活での諸経験と初期キャリアの関連性について考えます。