キャリア塾
2015年12月号(12月24日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

前回は、組織内キャリア・コンサルティングの活動内容を、(1)個別面談と(2)個人を取り巻く環境への働きかけに大別して紹介しました。今回は、後者の典型としての組織開発について考えてみましょう。

1.組織開発とは

あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、組織開発とは1950年代にアメリカで生まれ、欧米を中心に発展してきた「Organization Development:OD」の訳語です。学問的には主に経営学の領域で扱われる組織開発にはさまざまな定義がありますが、南山大学の中村和彦氏は、「組織内の当事者が自らの組織を効果的にしていく(よくしていく)ことや、そのための支援」(中村和彦『入門 組織開発』、光文社, 2015年)と、分かりやすく説明しています。

1960年代後半から1970年代には、日本にもさまざまなODの手法が導入され、「ODブーム」とも呼ばれた時期がありました。たとえば、グループ内でのメンバー相互の関わりから生じるプロセスに気づき、その体験から学ぶ「感受性訓練」または「ST(sensitivity training)」、職場の課題に気づき、その改善に皆で取り組む「職場ぐるみ訓練」、業績への関心と人間への関心の統合を目指す「マネジリアル・グリッド」などです。その後の日本では、さまざまな理由から組織開発は下火となりましたが、21世紀を迎えた頃から再び注目を集めるようになっています。



2.組織開発が再注目される背景

バブル経済崩壊後の1990年代、日本企業は落ち込んだ業績を回復するために、組織のハード面に対するさまざまな変革を行いました。たとえば、組織のフラット化や部門の再編、ダウンサイジング、IT化を伴う業務手順の変革、成果主義的な人事制度の導入などです。しかし、このような組織のハード面すなわち組織構造の変革だけを行っても、併せてソフト面である組織過程や組織文化・風土に働きかけなければ、ハード面の変革の効果は持続しませんし、組織で働く人間の行動も変わりません(図表1参照)。



図表1 組織のハード面とソフト面
出所:筆者作成


ここで組織過程とは、コミュニケーション、意思決定、リーダーシップ、コンフリクト(対人葛藤)解消など、メンバーの相互作用の態様を意味します。組織文化とは、たとえば「わが社では1回の失敗が命取りになるので、挑戦は避けたほうがよい」というような、メンバーによって共有化された信念、価値観、規範の集合体のことです。組織風土とは、たとえば「わが社は、新入りの社員に対して不親切である」などといった、メンバーに共有化された雰囲気つまり組織全体に関する主観的な特性のことです。

21世紀に入ると、ハード面を重視した変革によって、結果として従業員間のコミュニケーションの希薄化、職場の一体感の低下、メンタルヘルス不調者の増加などが顕在化し始めました。そこで、組織のソフト面にアプローチする組織開発が、これらの問題を解決してくれるものとして再注目されているのです。




3.一例としての職場環境改善活動

さて、組織開発は「診断型組織開発」と「対話型組織開発」とに大別されます(中村和彦、前掲書)。前者は、メンバーに対して質問紙調査などを行い、その分析結果をメンバーにフィードバックします。それをきっかけとして話し合い、行動計画を立案し、実行した後、その効果を評価するものです。後者は、組織や個人の強みや潜在力に焦点を当て、その潜在力を発揮するための将来像を探り、行動計画を立てて実行するものです。

ここでは、診断型組織開発の一例として、ストレス対策・メンタルヘルス対策である職場環境改善活動をご紹介しましょう。本年12月1日より労働安全衛生法が改正施行され、従業員に対するストレスチェック制度が導入されました。それに伴い、個々人の回答結果を職場単位で集計・分析して、その結果に基づいた職場環境改善を行うことが努力義務化されました。ですから、読者の皆さんの職場でも、この活動が徐々に導入されていくことでしょう。


職場環境改善とは、職場におけるストレッサー(ストレス要因)となりうる環境要因を特定し、それらをより望ましい状態にするための対応策をとることです。近年では、ストレス対策・メンタルヘルス対策の中でも、より積極的な予防的活動として重要視されています。

ここでいう職場環境とは、物理的な作業環境(換気・照明・騒音・温度・湿度、作業レイアウトなど)はもちろんですが、労働時間、仕事の量と質、職場の役割分担、職場の人間関係および職場の文化や風土などを含む、広い意味でのストレッサーとなりうるものを意味しています。

職場環境改善活動の一般的な進め方は、図表2のようになります。活動を行う組織の長の了解を得たうえで、推進役を職場内から選任するなどの体制整備を行います。そして、本活動の目標を定め計画を立案します。

現状把握のステップでは、職場環境の現状や個々人のストレス反応が把握できる質問紙調査などを行います。そして、その分析結果を踏まえて職場単位で改善策を検討・立案します。この時、管理者など一部の人間だけで検討するのではなく、1人でも多くのメンバーを巻き込むことが、その後の活動展開をスムーズにしてくれます。



図表2 職場環境改善の一般的な手順
出所:筆者作成


実際の改善策はさまざまです。たとえば、同僚同士のサポートが低いという分析結果を受けて、まずは同僚間のコミュニケーションを増やそうと、挨拶の励行に取り組む職場もあります。また、仕事の負荷が高いという分析結果を踏まえて、毎日の朝礼で各メンバーが抱えている過重負荷や進捗遅れなどの問題を“見える化”し、必要に応じて負荷分散を行う職場もあります。

その後、半年から1年間のスパンで改善策を継続して実行し、2回目の質問紙調査を行うなどして改善策の効果を評価します。その評価結果は、次期の改善活動に反映させていきます。私たちが3年間に渡って行った実証研究では、本来業務が多忙であるといった理由から職場環境改善活動が低調であったか実行されなかった職場では、環境要因やストレス反応の値は変化がないか悪化しました。他方、部会、課会、朝礼等のミーティングを定期的かつ確実に実施し、その場をうまく活用して情報共有、情報交換、問題解決のための話し合い等が行われた職場では、改善効果が認められました。

こうした結果を見ても、改善策実行の過程では、職場での改善活動が停滞せず継続するように、キャリア・コンサルタントや保健師などが改善活動を支援することが重要となります。そこで、私たちがお手伝いさせていただく職場では、約2カ月に1度の頻度でフォローアップ・ミーティングを開きます。ミーティングでは、推進役の方たちから改善活動の進捗状況をうかがいながら、「他の職場では、○○のようにやり方を変えたら、活動に参加する人が増えましたよ」など、必要に応じて情報提供やアドバイスを行うようにしています。


以上、組織開発の一例として職場環境改善活動をご紹介しました。こうした組織や職場に対する働きかけも、キャリア・コンサルティングの大切な役割だといえるでしょう。




次回からは、学校から職業への移行に伴う諸課題についてお伝えします。