キャリア塾
2015年11月号(11月26日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

前回は、人的資源管理における多様なキャリア形成支援について述べました。今回は、組織内でのキャリア・コンサルティングの活動内容について考えてみましょう。

1.組織内キャリア・コンサルティングの活動内容

現在、組織内でのキャリア・コンサルティングには、個別面談はもちろんのこと、個人を取り巻く環境へ働きかけるという役割も求められるようになっています。労働政策研究報告書No.171の中で高橋浩氏は、組織内で活動するキャリア・コンサルタントを対象とした自由記述調査とインタビュー調査の結果を踏まえて、このことを図表1のように整理しています。


図表1 組織内キャリア・コンサルティングの活動内容 

活  動
個別面談 環境理解の支援
自己理解の支援
未来構築への支援
個を超えた支援 上司への支援・介入
職場への介入
経営者へのアプローチ
その他の活動

出所: 高橋浩「第5章 企業内キャリア・コンサルティングと組織開発」,労働政策研究・研修機構『企業内キャリア・コンサルティングとその日本的特質』,2015,p.88

個別面談は、キャリア・コンサルティングの基本となる活動です。このうち「環境理解の支援」では、組織の一員としての働き方、組織の各種ルールや制度・施策、組織文化・風土などに関して、相談者の理解を深める手助けをします。また、「自己理解の支援」では、相談者自身の経験や能力、それらの前提にある本人の興味・関心、価値観やキャリアの志向性などについて、適切な自己理解ができるように支援します。そして、環境理解と自己理解を踏まえて「未来構築への支援」、すなわち相談者の将来についてのキャリアプランニングについての相談が行われることもあります。




2.若手従業員のリアリティ・ショック

まず「環境理解の支援」の一例として、若手従業員との個別面談について考えてみましょう。近年の新卒採用選考では、エントリーシートでも面接試験においても、自己PRや志望動機に加えて、入社後に何をやりたいのか、どのような従業員になりたいのかを尋ねられます。ですから、それらを考え抜くことによって内定を獲得し入社してくる新入社員をはじめとした若手従業員は、「やりたい仕事」に関する明確なイメージをもって組織に入ってきます。

しかし、実際に働いてみると「思っていた組織や仕事と違った」や「すぐに自分のやりたい仕事をやらせてもらえない」などと、リアリティ・ショックを受けることが多々あります。それが個別面談において、現在の仕事への不満や、「やりたい仕事」ができる部署への異動、場合によっては転職意思というかたちで表出します。

このような場合には、相談者本人の気持ちに共感しつつも、組織の一員として働く以上、個人のキャリア目標や「やりたい仕事」にすぐに希望どおり就けるわけではなく、組織からの要求である「やるべき仕事」があることを説明します(図表2参照)。そして、「やるべき仕事」をした経験は後になって必ず生きてくるので、自分のキャリア形成を急ぎすぎないことを諭すことも必要となります。



図表2 やるべき仕事とやりたい仕事
出典:筆者作成



3.メンタルヘルスと関連するキャリアの問題

次に、「未来構築への支援」に関する個別面談の一例として、メンタルヘルスと関連するキャリアの問題について考えてみましょう。例えば、相談者が「今の仕事では専門性があまり身に付かず、自分に自信がもてない」や「昇進して管理職になったものの、部下の指導・育成がうまくいかずにつらい」などと自分のキャリア上の問題で悩み、それが原因でうつ病などのメンタルヘルス不調となることがあります。

逆に、メンタルヘルス不調で休職したことがきっかけとなって、「今までのような仕事のやり方で良いのだろうか」などと、自分のキャリア形成のあり方を見直す必要性に迫られることもあります。

このような場合には、健康管理部門の産業医や保健師など、メンタルヘルスを専門とする部署との連携が不可欠となります。具体的には、病態のアセスメントや復職可否の判断は産業医に任せ、キャリア・コンサルタントは、復職前後のフォロー面談やこれからのキャリアプランニングに関する相談を担当するという役割分担をすることになります。




4.個人を取巻く環境への働きかけ

ここまで個別面談について述べてきましたが、他方、個を超えた支援、換言すれば個人を取巻く環境へ働きかけることも、組織内キャリア・コンサルタントとしての大切な役割です。例えば、個別面談で「上司との意思疎通がうまくいかない」とか「仕事に必要な情報が職場で共有されていなくて困る」などの悩みが吐露されたとしましょう。そして、それが相談者個人だけでの解決が困難な場合には、本人の了解を得たうえで、その上司と接 触する必要性が生じます。いざ上司と接触して話を聴いてみると、実は上司自身も職場のマネジメントのやり方に悩んでいたということもあります。そこで「上司への支援・介入」では、キャリア・コンサルタントと上司が一緒に現状の問題点や今後の方向性について考えていくというスタンスが求められます。

また、個別面談の中で話されたことが、キャリア・コンサルタントによる上司への働きかけを経て、職場に受け入れられるという場合もあります。例えば、上述した職場での情報共有不足という悩みに対して、「もっと情報交換・共有の場があったほうが良いと思うのですが……」といった相談者から出されたアイデアが、朝礼や定期的な職場ミーティングの実現につながったということもあります。このようなケースが、「職場への介入」への好例といえるでしょう。

さらに今後は、個別面談での従業員個々人の悩みや要望などと真摯に向き合いながら、それらを組織全体の視点から捉えて「経営者へのアプローチ」を行うという活動も、組織内キャリア・コンサルタントには、より強く求められるようになるでしょう。例えば、育児や介護と仕事との両立に悩む従業員の声を集約して、短時間勤務制度などのワーク・ライフ・バランス施策の導入を経営者に提案していくというようなことです。ただし、このような組織全体にかかわる制度・施策の導入や変更は、一朝一夕で成し遂げられるものではありませんので、地道で継続的な働きかけが必要となります。

最後に、図表1の「その他の活動」としては、例えば30歳、40歳、50歳などの年齢の節目に行うキャリア研修を企画・立案したり、その研修に講師として関わったりするなどの活動が挙げられます。



以上述べてきましたように、組織内キャリア・コンサルタントには、個人を見る眼と組織を見る眼の両方が求められています。ですから、カウンセリング・スキルとコンサルティング・スキルを併せ持つことが、組織内キャリア・コンサルタントの存在意義を高めていくことになるでしょう。




次回は、個人を取巻く環境への働きかけとしての「組織開発」についてお伝えします。