キャリア塾
2015年10月号(10月29日発行)
国立大学法人 東北大学
高度教養教育・学生支援機構
キャリア開発室 高橋 修 准教授

今回から数回にわたって、組織内キャリア・コンサルティングについて考えてみたいと思います。まず今回のテーマは、人的資源管理における多様なキャリア形成支援です。

1.キャリア・コンサルティングとは

改めて、キャリア・コンサルティングとはどのような活動を意味するのでしょうか。厚生労働省の定義によれば、「個人が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう、個別の希望に応じて実施される相談その他の支援」のことを言います(出所:平成19年11月、厚生労働省「キャリア・コンサルタント制度のあり方に関する検討会」報告書)

「・・・相談その他の支援」という定義からもわかるように、キャリア・コンサルティングの活動は、必ずしも個人に対する相談に限定されるものではありません。個人の活動に対応して必要に応じ内外の組織や集団への働きかけを行うことも含まれます。この「相談」や「その他の支援」の具体的内容については次回以降で取り上げていきますが、まずは人的資源管理における多様なキャリア形成支援について考えてみましょう。




2.人的資源管理における多様なキャリア形成支援

企業などの組織において、従業員の採用・配置、人事評価、処遇、能力開発、福利厚生などを行う人的資源管理には、それぞれの目的に応じたさまざまな制度・施策があります。



図表 人的資源管理における多様なキャリア形成支援
出典:二村英幸『個と組織を生かすキャリア発達の心理学』金子書房,2009,p.116


二村英幸氏によれば、これらのうち従業員のキャリア形成支援を目的とした制度・施策は、図表にあるように多様なものから構成されます。

図表中の管理者とメンバーとの間で行われる目標管理では、目標設定=Plan、目標達成プロセス=Do、成果の評価=Seeという目標を核としたマネジメントのサイクルを展開していくことになります。その中でメンバーを目標達成に向けて動機づけ、その意欲を最大限に喚起することによって、組織の成果を創出します。と同時に、このマネジメントのサイクルを循環させることによって、目標達成に必要なメンバーの能力を育成し、組織体質の強化をめざします。したがって、目標管理とはメンバーのキャリア発達を支援する機会でもあるのです。

組織における教育研修には、階層別研修、部門(職能)別研修、課題別研修などがあります。そして、近年では従業員のキャリア形成支援を主眼としたキャリア研修も実施されるようになりました。キャリア研修では、30歳、40歳、50歳などの年齢の節目に、過去から現在までの自分を振り返り、さらに今後のキャリア発達課題を明確化し、将来像を見定めることを行います。このようなキャリア研修によって、個人が自律的にキャリアを発達させていく契機となることを期待しています。

従業員のキャリア形成支援を目的とした人事制度としては、自己申告制度、社内公募制度、FA(フリーエージェント)制度などがあります。自己申告制度は、仕事の現状を組織に報告するとともに、個人的な事情や将来のキャリアに関する希望を申告する制度です。社内公募制度は、新しいプロジェクトが発足するなどして、増員が必要になった場合に、組織内で人材を公募し調達する制度です。FA制度は、上司を経由せずに異動したい部署を従業員が直接申告することができる制度です。これらの制度は、「自律的なキャリア形成を実現させ、働く個人の不満がうっ積しないようにするとともに、組織の流動性を保ち活性化させる効果が期待」(二村英幸『個と組織を生かすキャリア発達の心理学』金子書房,2009)されています。

メンタリング、コーチング、キャリア・カウンセリングといった個別支援も、従業員のキャリア形成支援を目的とした制度・施策の1つとして位置づけられます。メンタリング制度とは、人材育成の一環として、意図的に従業員の間でメンター(指導者)とメンティ(被指導者)のペアを作る制度です。コーチングでは、個別の人間関係の下で具体的な目標を設定し、コーチ役の人間がコーチングを受ける人間の目標達成を支援したり動機づけたりします。そして、ここでいうキャリア・カウンセリングが、冒頭で述べたキャリア・コンサルティングの中の個人に対する「相談」に該当するといえるでしょう。




3.キャリア・コンサルティングを意義あるものとするためには

私も含めてキャリア・コンサルティングを担当する立場の人間は、いかにして組織内にキャリア・コンサルティングを導入し、普及・定着させるかに腐心しがちです。しかし、従業員のキャリア形成を支援するという目的に照らして考えれば、キャリア・コンサルティングは1つの手段に過ぎません。

したがって、その目的の実現に向けて、上述したさまざまな制度・施策をうまく組み合わせ、多面的かつ継続的に取り組むことによって相乗効果を生み出していくことが大切だといえるでしょう。裏を返せば、キャリア・コンサルティングのみを導入しただけでは、効果は限定的なのかもしれません。

そこで、キャリア・コンサルティングの個別相談の際には、組織内に導入されている諸制度・施策を理解したうえで、必要に応じて相談者がそれらをうまく活用できるような働きかけも求められます。

しかし、ある制度・施策を設計し、組織への導入を図り、継続的に運用していくには、それ相応のマンパワーや予算を必要とします。このあたりに、「企業規模が小さいほどキャリア・コンサルティングの実施割合が低い」(平成26年度「キャリア・コンサルティング研究会−企業経営からみたキャリア・コンサルティングの意義や効果に関する好事例収集に係る調査研究」報告書)ことの背景があるのかもしれません。今後の課題といえるでしょう。




次回は、組織内キャリア・コンサルティングの活動内容についてお伝えしたいと思います。